日々のせいか

郊外のマンションで、ネコとカメと壊れたオジサン看ています。

愛しのナーベラー

友人から、日除けに植えたゴーヤが豊作と聞き、ほいほい出かけてきました。
なるほど見事な苦瓜の棚。
そのイボイボの瓜が沢山ぶら下がる中に、つるりと滑らかな糸瓜が二つ三つ・・・。
「ワッ、ナーベラー」つい叫んでしまいました。聞けば、これは日除けとは別で、小学生のお孫さんが夏休みの観察で植えたヘチマだそうです。
うーん、そんなことはどうでもよい。わたしは、舌舐めずりしてナーベラーことヘチマを見つめました。

沖縄をふるさとにしてから、わたしは、当時の本土には無いさまざまな食材を美味しく食べてきました。
魚ならミーバイやグルクン、豚肉ならティビチやミミガー、ポーク玉子やタコライスのようなファストフードも大好き。
どれも夏が来ると、食べたくてたまらなくなるのです。
ここ数年は、沖縄の食材が東京の町にあふれ始め、みんなが普通にゴーヤチャンプルを作り始めたのには驚きました。
なのに何年たっても、ナーベラーだけは食材として認知されず、ヘチマを食べると話せば、あのお風呂のアカスリを!と呆れられるばかり。

沖縄では、ナーベラーをキュウリほどの大きさでもいで、野菜として料理します。
ツナやピーマンと一緒にミソ炒めが多いかな。その語感通りの滑らかな食感で、味はナスやズッキーニに近いかもしれません。
ゴーヤほどインパクトはないけれど、しみじみ沖縄のおかずよねーという素朴な一品。

遠く懐かしい沖縄。
存外、帰郷願望が強いのは、エムじゃなくわたしかも知れません。
ナーベラーは、友人がお孫さんさんに頼んでくれて(あのおばちゃんがスポンジ食べるんだって!)食用にはいささか大ぶり、やっぱりどう見ても浴用の一本をいただいて帰りました。f:id:kingyo5132:20160813215014j:plain

夏の涼しいアイテムは

f:id:kingyo5132:20160809222754j:plainいきなり黒焦げになりそうな、とんでもない猛暑日
エアコンの虜になりそうな昼下がりに、妙案が浮かびました。
水を満たしたバスタブにライムをギュッと絞って、いつものシャワータイムとは違うおサカナになる時間。
マンションの中庭からは、水遊びをする子どもの声が聞こえてきます。

ライムの水のなか、ようやくひんやりした頭は、幼い日の記憶に漂います。
何の屈託もなく裸んぼになれたあの頃・・・
子どもの行水もそうですけれど、昔は家のなかで、ステテコ一丁のお父さんやシミーズ姿のお母さんなんて、ごく普通にいましたよね。
お婆ちゃんなんか、胸もブラブラ露わでほぼセミヌードでも誰も咎めたりしませんでしたよね。あの微苦笑の光景は、いつの間に消えたのでしょう。

代わりに、早朝からスーツにぴっちり身を包み、通勤電車にがんじがらめになる人の群れ、群れ、群れ・・・

エアコンの完備した家ではそうそう半裸になりにくく、室外機からの熱風はさらに街をヒートアップさせます。
そして、風鈴、蚊帳、氷屋さんのガリガリいう音・・涼しい夏のアイテムが消えつつあります。
なんて憂いでいたら、エムのケアに来宅した訪問看護師さんが、大発見を教えてくれました。
「奥さん、クマゼミが鳴いてます」


who?
皆さんは、クマゼミってご存じですか。図鑑で見ると、西日本に生息する大きなセミ。朝方、シャーシャーと鳴くそのセミは、最近、武蔵野市の訪看さんちのそばで鳴いているそうです。
猛暑となった東京のニューフェイス・Mrクマゼミ
シャーシャーってどんな感じなのでしょう?少しでも涼しくなる音ならいいけど、セミだもん、それは無いな。

気合いのクッキング

f:id:kingyo5132:20160807225811j:plain「きぬかつぎ」というのかな。親指の頭ほどの小さな里芋を、ざる一杯ごしごしと洗ってから茹であげ、ぱらぱらと塩をふる。
豚ロースの固まりは、たこ糸で可愛く緊縛したら、梅干しと一緒に鍋でことこと、酸味のきいた煮豚のできあがり。
あとは、ぱりばりに冷やしたキュウリの浅漬けがあればいい。

ブラジルかと思い違えたようなこの暑さに、何が食べたいのかわからなくなる食事どき。
遥かリオの中継を眺めながら、
わたしも負けてはならじとキッチンに向かいます。だらけたくなる自分に気合を入れて、まずは一品、一気呵成につくること。


萩野公介君、あなたはやっぱり凄いです。


ツルは前へ前へ

f:id:kingyo5132:20160805173736j:plain夕暮れのベランダには、酷暑をやり過ごした植木たちが、ほっとしたように緑の葉を茂らせています。
なかでも特異な光景を見せているのは、フウセンカズラのツルです。
ご存知ですか?

名前の通り風船そっくりのまん丸な実?をつけるツル草です。
そのカズラがベランダの柵いっぱいに広がってグリーンのカーテンのように目を楽しませてくれるのですが、か細いツルが1本だけ、どこにつかまるでもなく、ただただ中空にその先端を伸ばしています。

不思議だったのは、強風になぶられてもゲリラ雷雨に打たられても、翌朝には何もなかったかのように中空にいることです。

いまそのツルは、1メートル近くに成長し、それでもひたすら前へ前へと伸びています。 
その様子には、単なる植物の生命力というより、意思のようなものさえ感じてしまいます。
彼方の空を掴もうとするかのように、ひたむきに前へ前へ。

前に何があるというの?
人間はそんなに強くなれなくてねえ・・・
わたしはベランダにしゃがんで、ツルを相手にとりとめのない説得やら自己反省やらしながら、あと少しだけ自分も頑張ろうかと思います。
そう思ってから、いったい何があと少しだけなのかがわからなくて、にわかに熱中症が気になると慌てて部屋に入るのでした。


右の胸

わたしは逆境というか修羅場に強いのです。
エムのことの以前からそう思っていました。
例えば、バスでテロリストと乗りあわせても驚愕しないで、状況を見たあと反撃を考えちゃうぞ、くらいに。

けれど、そんなわたしが絶対無理なのが、病気です。
不治の病と知るや、とたんに意気地がなくて「もう死にたい」とか絶対言っちゃうタイプなのです。

そんな弱虫が、以前見たドキュメンタリーに教えられました。
それは、24歳で乳ガンに冒されたTV局女性記者の記録映像です。
現在31歳の彼女は、文字通り死に物狂いの闘病を勝ち抜いて、同じ境遇の若いガン患者たちのネットワークを立ちあげます。
圧倒的だったのは、彼女が、20代で左乳房を全摘した女の子に誘われて入浴するシーンです。
女の子は、術後初めて人と湯に入る解放感にくつろいだ後こう言います。
「わたし、手術からずっと左胸だけを見て来たような気がします。でも明日からは右の胸を見ていきます」

そうか。
そういう思い方だったら、わたしもできるかもしれない。
姿も見せずに忍び寄る敵に、少しだけ身構えと心構えができた気がしました。

シン・ゴジラ

日曜日、観に行きました。ハリウッドも含めて約30作は映画化されて来たゴジラ。今回はどんな姿を見せてくれるのだろうと、期待にワクワクして大人も子どもも映画館に向かうのはゴジラシリーズならではの光景なのでしょう。

今回のテーマは、お馴染みの怪獣ゴジラ対人間では無くて、『巨大不明生物』に襲われた現代日本社会です。首相官邸を中心にして閣僚、関係省庁の官僚たち、自衛隊が、指揮命令系統ぐちゃぐちゃの中で責任を押し付けあう中、それでも未曽有の脅威に何とかして闘おうとする姿は、東日本大震災原発事故をはっきり想起させて、既視感あふれる展開に息をのみます。

その『巨大不明生物』こと我らがゴジラですが、東京湾に現れたときは正直モスラの幼虫が溺れてるのかと思ったくらい、めちゃダサいです。それが変貌を遂げて行く様が最高の見せ場。結果、キャラクターグッズのノート買っちゃうほど、わたし今回のゴジラ好きです。

映画のもう一つのテーマは、『スクラップ&ビルド』なのでしょう。
壊滅的な被害を受けてガレキの山となった大東京を再び作り直すのだと、長谷川博巳と竹野内豊は力強く誓います。
そう、イケメンだし純粋だし、彼らなら東京再建を任せてもいい。

帰宅した夜、8時の時報数分後に流れたニュース速報に、わたしは深くため息をつきました。
東京、あのグリーンウーマンに本当に任せちゃいますか?

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夏のお嬢さん

エムの送迎車を見送ってエントランスに戻ると、インタフォンの前で何やら惑う素振りのご婦人をお見かけしました。

わたしがエントランスの扉を開けてお招きすると、丁寧に御礼を述べられてから、こう続けられます。
「もう数年ぶりに訪ねて来たのですけれど、その部屋がどこやら分からなくなりましたのよ」
ご婦人は、お見受けしたところ70歳はゆうに越えていらっしゃり、細身の体型にウエーブのかかった銀髪をきれいにセットされ、上品な水玉のワンピースと白のパンプスがお似合いです。

実は、わたしが一瞬疑った認知症なんてとんでもない。
「家族みんなで旅行に出たんですよ。受験の孫だけ残るって言うから、わたし川口から飛んで来ちゃって。恥ずかしいわ、何階だったのかうっかりして」
手元の小さな紙に、電話番号だけがメモしてあります。

彼女、携帯無いので、わたしスマホから電話しました。
「◯◯様のご自宅ですか。実はお祖母様に頼まれてお電話している者ですが・・」
電話の向こうで若い男の子が、ワオッと呟きました。

孫の慰問にシャンシャンと現れたチャーミングなお祖母様の、わたしはさしずめメイドのように目指す部屋にたどり着くと、スマイルマークまんまの笑顔の男の子が大きくドアを開けました。

「◯君ね、こちらがご親切にも良くして下さってどうしましょう。お茶でもなんでも何かないかしら?」
と華やかなおしゃべをするお祖母様の頭上、高校生の彼と目顔でうなづきあって一件落着です。
『キミのお祖母様、とっても可愛い方だから大事にしなさいよ』

老嬢と言うなかれ、わたしが出会った、夏のお嬢さんでした。

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