日々のせいか

郊外のマンションで、ネコとカメと壊れたオジサン看ています。

車内のケモノ

悲しい事故を伝えるニュース映像には、主人を失い、地下鉄のホームに身を伏せる盲導犬の姿が映り込んでいます。

その姿は、わたしが2年ほど前に電車内で体験したある出来事を思い起こさせました。


・・・車内は、学生や通勤客で混み合っていました。乗りこんだわたしが立った場所には、足元に盲導犬が大人しくうずくまっていたのです。

ああいいコだなあと思って目をとめ、電車が動き出してほどなくです。席に座る人間とその前に立つ人間の間を割くように、学生服の男の子がサーッと走り込んで来て、盲導犬の左前足を踏んだのです。
感触を確かめるように踏む少年、目を伏せる犬、一瞬を見てとったわたしは反射的に呼び止めました。

「いま、踏んだでしょ?」
「踏んでません」
「見てたのよ、踏んだ!」
「・・ごめんなさい」

そのガキは言い捨てると再び車内を掻き分けて消えました。もちろん席に座られている盲人の方には何もわかりません。

怖ろしくて心が震えたのは、その後からです。
わたしの横に立っていた高校生の女の子がそっと口を開きました。
あの少年は、わたしが乗り込む前にも2回同じことを繰り返したそうです。絶句するわたしに、盲人の隣席にいた男性もそうなのだと頷きます。


あの日、あの車内にいたのは、静かな人間たちと誠実な犬、そして一匹のケモノでした。

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