日々のせいか

郊外のマンションで、ネコとカメと壊れたオジサン看ています。

ピアニッシモ

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夕方の同じ時間、デイサービスの送迎車を待って道端に立っていると、何人かの同じ顔を見るようになり、自然と会釈するようになります。
その一人に、10才くらいの女の子がいました。大きな瞳におかっぱが似合うその子は、2年くらい前から、大好きなピアノ教室の帰りに「こんばんは」とハキハキした声で挨拶してくれました。「ピアノがんばってるのね」とわたし。名前きかなくても立派な顔見知りです。

女の子の姿を見かけなくなったのはこの春からです。
ある日、ずいぶん久しぶりに出くわした彼女は、ひどく急いでいました。
それなのに、わたしに気づくと近づいて来て、こんなことを話してくれました。
ピアノは好きだったけど塾に行くようになったのでやめたこと。そして「学校が終わるとすぐ塾で、そのあとも塾なんです。もう家族といる時間ぜんぜん無いんです」小さな声で言うなり夕闇に走って行きました。

いったい10才の女の子が言うことなのでしょうか。
友だちと遊びたいとか、ゲームがしたいとかじゃないのです。
あの子は家族と一緒にいたいのに、当たり前のことなのに、何故それが叶わないのでしょう。

エムを待つ時間。
あれから、わたしの周りにはいつも、景色に溶け込むような女の子のひそやかな言葉があります。もちろん、どうすることもできないし、しないけど。

わたしはいつもここにいるよ。